京都の御蒔絵筆司・村田九郎兵衛商店を訪問!

左からウルシネクスト佐々木、村田重行氏、中根
10月20日、京都中心部のほど近くに佇む、村田九郎兵衛商店さんの工房を訪ねました。
代々、伝統的な蒔絵筆を製作されてきた村田九郎兵衛商店さんは、漆芸界で圧倒的な信頼を担う老舗で、「村九(むらきゅう)」とも呼ばれています。
今回はその九代目、文化財選定保存技術の保持者でもある村田重行さんにお話を伺いました。

美しい蒔絵筆
蒔絵筆は、漆で絵や模様を描く際に使われる専用の筆。
蒔絵や漆絵、金継ぎなど、用途によってさまざまな種類の蒔絵筆が作られています。
はじめに見本一覧を見せてくださったのですが、その美しいこと!
右側に配された根朱筆の繊細さに、まず目を奪われます。

根朱筆の穂先

幻の素材、ネズミの毛
かつて最上質の蒔絵筆には、ネズミの毛が使われていました。
一本一本が細く、しなやかでありながら強い弾力を持つため、精密な線を引くのに理想的な素材です。村田さんによると、昔の名人は、この根朱筆で3mm幅に細い線を10本引けたとのこと。この筆でしか引けない線があるんですね。
木造船や日本家屋にいるネズミの水毛(うぶ毛)が最良とされていましたが、時代の流れや環境の変化により徐々に入手困難となり、今では幻の素材となりました。以前は村田さんのところに2~300枚(匹分)、多い時で1,000枚くらい入っていたのが、今ではもうストックしているわずかな毛で終わりとのことでした。

現在はその代替として、中国から輸入される白猫の毛を使用しています。色の付いた毛は細くならないからなのだそうです。ネズミほどの精緻さは望めませんが、特に背中の毛は毛先が透き通るくらい細く、柔らかくてしなやか。今ではこの猫の毛(玉毛)が筆づくりを支える大切な素材です。

束から真っ直ぐでクセのない長い毛だけを、丁寧に選り分けて使います。
ちなみに、根朱筆の「根朱(ねじ)」はネズミ〜ネズ〜ネジ、からきているそう。
そこから、白猫の毛を使用した現代の基本的な蒔絵筆「根朱替(ねじがわり)」は、ネズミの替わり〜ネズ替わり〜ネジ替わり、といわれるそうです。

筆作りの工程の一部を見学させていただきました。
毛を一本ずつ抜き取り選別し、精巧な筆に仕上げるには、熟練の目はもちろん、気が遠くなるほどの手間と根気が必要です。

小さな穴に選り抜いた穂先を詰めて

穂先を整える音、自然のリズムが心地よい

整えた穂先を絹糸で結う

穂先は蒔絵筆の要

繊細な職人技に息をのむ

軸も含め筆の全てが自然の素材から生み出される

代々使用され年季の入った、毛を梳くための櫛

一瞬も見逃せない、匠の手仕事
村田さんによると、動物愛護の風潮や時代の流れから、ここ数年中国でも猫の毛の入手が難しくなり、注文してから入荷まで半年以上もかかるのだそう。
「猫の毛が手に入らないから、筆の注文があっても製作が追いつかないんですよ」
静かに語る村田さんの言葉には、伝統の灯を絶やさぬ覚悟と、素材を得られぬもどかしさがにじみます。
現在、このような伝統的な蒔絵筆を作られているのは、村九さんほぼ一軒ともいわれています。継承者の見通しについても触れてくださいました。息子さんが跡を継ぐご意志があることは心強い限りですが、素材不足の懸念が大きく、伝統的技術の尊さとともに、材料の貴重さを実感しました。

村田氏と二人三脚で筆づくりを支える奥様
今回、ロクシタンの「WE ACT投票」による寄附金を活用した「伝統的技術の継承」プロジェクト第三弾の一環として、ウルシネクストから村九謹製の蒔絵筆15本を、東京藝大の漆芸研究室へ提供させていただきました。
「良い作品は、良い道具から」。未来を担う若者と漆芸業界、企業が目指すサスティナビリティ、いずれもより良い循環が生まれるよう願っています。
素材や筆づくりのお話に加え、製作の様子も拝見叶い、大変貴重な機会となりました。村田さま、おいそがしい中ご対応いただき、本当にありがとうございました。
執筆者プロフィール

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YUI JAPAN主宰/NPO法人ウルシネクスト理事
JAL国際線CA・要人接遇を経てYUI JAPAN主宰。「うるしのある麗しいくらし」をテーマに、心豊かなライフスタイルを提唱。最上質の輪島塗を厳選してご紹介し、お誂え、商品開発も行う。漆工藝をはじめとした伝統文化に関する執筆、講演、ワークショップ、「和の作法」指導など活動は多岐にわたる。伝統を未来へつなぐため、「日本の美意識」を国内外へ伝え続けている。
公式Webサイト
https://yuijapan.jp
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