ウルシの木の品種について

ウルシの木の品種について

鳥取市佐治町でのことです。そこは佐治漆と名をはせたかつての漆生産地です。そこで植栽した幼樹を見ていた時、佐治漆研究会長である山本達夫さんの言葉です。「かつては7枚目で止葉(とめば)と言っていた。小葉6枚はこの辺りでは普通だった。」とおっしゃるのです。佐治町のウルシの木の品種は、自分が知っているウルシの木とは違うのかと不安になりました。日本のウルシの木は一品種とこれまで考えていましたが、それぞれの土地の環境に応じていろいろと変化が起きているのかと思い、文献にあたってみました。

初めて漆掻きさんに同行した時には、近くに生育し同じ樹皮であるのに漆液の滲出量や出方(すぐ滲出する、なかなか滲出がやまない、など)の異なる状況を目にし、品種が違うのではないかと疑ったものでした。青森県田子町の漆掻きさんは、樹皮の色によりシロ木・クロ木・アカ木と分けていました。

『林産必携 農村林業』(明永久次郎著 昭和26年 アヅミ書房)には「個樹によつて採液量に大差があるので、農家は外觀の特徴によって識別し、各地方毎にそれぞれの名稱をつけて呼んでいる。」として、(1)ナシハダ・モチハダ(梨肌・餅肌)、(2)シロハダ・クロハダ(白肌・黑肌)、(3)シロキ・アカキ(白木・赤木)を挙げています。

『新版 林業百科事典』(昭和63年 丸善)の「うるし 漆」の中には次の一文があります。「ウルシの木には樹肌(はだ)の色相の違いによってナシ肌とクルミ肌(一名もち肌)とがある。この呼び名は古くからあったものでなく昭和初期に漆液採取者によってつけられたもので、前者は樹肌がナシの樹肌に似ており、後者はクルミの樹肌に似ていて、しかも樹皮が厚い感じであり、漆液の分泌は多い。」

『漆工辞典』(2013年 角川学芸出版部)の「ウルシの木」の説明には「ウルシ科ウルシ属の落葉樹。中国や朝鮮半島、日本では九州から北海道の網走まで広範囲に生育する。ウルシ属には六種類あるが、日本では漆液が採れるのをウルシの木という。学名はRhus(Toxico-dendron)vernicifluam。(以下略)」

以上のことから、漆液採取者により樹肌の違いによる名称が用いられるが、日本で漆液を採取するものをウルシの木といい一種類である、ということになりそうです。(佐治町での不安や疑問が解決した場合には、後日報告いたします。現在いろいろと問い合わせ中です。)

執筆者プロフィール

橋本芳弘
橋本芳弘
昭和30年  青森県三戸郡新郷村谷地中に生まれる。
昭和52年  弘前大学 工業試験場 漆工課卒業
昭和52年~ 教職に携わり夏休み中に全国の漆産地を行脚
平成8年~  平成21年度青森県史編纂調査研究員(文化財部会推薦)
平成28年~平成31年3月  青森県新郷村教育委員会教育長

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